大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)6285号 判決 1970年9月12日

原告 新和機械工業株式会社

右代表者代表取締役 山崎新一

右訴訟代理人弁護士 長尾章

同 野原泰

被告 株式会社港建築

右代表者代表取締役 田中力

<ほか一名>

右被告両名訴訟代理人弁護士 芦田浩志

同 尾山宏

主文

原被告間の当庁昭和四三年(手ワ)第一八六三号約束手形金請求事件の手形判決中仮執行免脱宣言を取消しその余を全部認可する。

異議申立後の訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

一、当事者の求める裁判

本件手形判決の事実摘示記載のとおりであるからここにこれを引用する。

二、請求の原因

原告は、被告株式会社港建築が提出し、被告田中力が手形保証した別紙手形目録表示の記載のある裏書の連続した約束手形一〇通(うち5ないし10の裏書は取立委任裏書である)の所持人であるが、右各手形はいずれも呈示期間内に支払のため呈示されたところ支払を拒絶された。

よって請求趣旨記載のとおり、被告ら各自に対し右手形金合計七三二万二、一四〇円及び各手形金額に対する各満期の日から支済みまで法定の年六分の割合による利息の支払を求める。

三、請求の原因に対する認否

全部認める。

四、被告らの抗弁

1  本案前の抗弁

原告は別紙手形目録5ないし10記載の手形については取立委任裏書の被裏書人であるが、かかる者は裏書人を代理して訴を提起することはできても自己の名において訴を提起する資格を有しないものである。すなわち原告は右手形金請求につき当事者適格を有しないのであるから、本訴請求中右の部分は却下されるべきである。

2  本案の抗弁≪省略≫

五、抗弁に対する認否

1  本案前の抗弁について

取立委任裏書の被裏書人は、本来の訴訟追行権者たる裏書人から、自己の名で訴訟を追行する権限を付与されたものというべきであり、かかる被裏書人が当事者適格を有することは、いわゆる任意的訴訟担当の一場合として判例(大判昭和一一年一二月一日民集一五巻二一二六頁、東京高判昭和三六年四月一一日下民集一二巻四号七六五頁)及び民事訴訟学説の広く認めるところである。

2  本案の抗弁について≪省略≫

六、証拠≪省略≫

理由

請求原因事実については当事者間に争がない。

そこで被告らの抗弁について判断する。

先ず、本案前の抗弁について考えるに、本訴請求にかかる別紙手形目録5ないし10記載の手形について、原告が取立委任裏書の被裏書人である事実は当事者間に争がない。ところで、取立委任裏書の被裏書人が自己の名で手形金請求訴訟を提超できるか、については説の分れるところであるけれども、当裁判所は右被裏書人は自己の名において訴を提起することができるものと考える(大判昭和一一年一二月一日民集一五巻二一二六頁、東京高判昭和三六年四月一一日下民集一二巻七六五頁参照)。

よって本案前の抗弁は理由がない。

次いで本案の抗弁について考えるに、本件手形が被告会社から東京建機へ、同社から原告へと移転した事実は、原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

そして別紙目録1ないし4記載の手形について原告が期限後裏書を受けた事実は振出人作成部分については当事者間に争がなく、その余の部分の成立は弁論の全趣旨によってこれを認める甲第一号証の一ないし四によって認められ、同目録5ないし10の手形について原告が取立委任裏書を受けたことは、前記のとおり当事者間に争がない。

そこで被告らの東京建機に対する抗弁について順次判断する。

(一)  原因関係消滅の抗弁について

被告らは本件手形の原因関係は、原告と被告会社間に締結された骨材生産プラント製作組立契約の一部をなす原告、被告会社、東京建機三者間の代金支払に関する約定であると主張するが≪証拠省略≫を総合すれば、被告主張の本件プラントは原告から東京建機に売渡され、次いで東京建機から被告会社に対して売渡されたものである事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

してみれば、原告との契約を解除したことを理由とする被告会社の東京建機に対する原因関係消滅の抗弁が理由のないことは明らかである。

(二)  仮定的契約解除の抗弁について

被告らは、被告会社と東京建機との間に結ばれた本件プラントに関する契約は、プラントの瑕疵を理由として解除されたと主張するのに対して、原告は右は時機に遅れた防禦方法であるから却下を免れないと主張するので判断するに、攻撃防禦方法の提出について時機に遅れたものとして却下するためには、これにより訴訟の完結が遅延することを要するところ、被告の右抗弁が本訴弁論終結間際の第一二回口答弁論期日において主張されたことは記録上明らかであるが、右抗弁につき新たな証拠調を要しないことはその主張内容自体から明らかであるし、右主張の認否をなすにつき原告が事実の調査を必要とするものでないことも本訴の経過に照らして明らかである。したがって右抗弁は時機に遅れたものであるとはいえず原告の申立は却下さるべきである。

そこで右抗弁について判断するに、本件プラントに関する契約が東京建機と被告会社の間に成立したことは前認定のとおりである(仮定抗弁の関係でこの事実は当事者間に争がない)。しかしながら、本件プラントの生産能力が約定以下でありかつ故障、破損が続出し、昭和四二年四月二四日の契約解除の意思表示の時まで改まらなかったとの主張について考えるに、≪証拠省略≫を総合すると、本件プラントには納入後多少の不備が発見され、昭和四一年八月初頃数個所の手直しが加えられたが、その後八月下旬と九月上旬の二回に行われた性能試験の結果、生産能力及びふるい分け能力とも判定の条件を満すものであることが確認され、同年一〇月五日には被告会社代表者も東京建機代表者訴外羽島駿一に対してこれを認め、本件プラントの引取りを確認すると共に、従来の不備による損失等の清算として約定の代金から約七〇万円を差引いて、総額約一二四〇万円の約束手形を振出しこれに個人保証をして右訴外人に交付したこと、その際東京建機は被告会社が要求した一一項目の補修改善の申入れを承諾し、原告をしてこれをなさしめてすべて完了したこと、を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫右事実によれば被告ら主張にかかる性能の瑕疵は存在しなかったものと判断され、故障等についても右一〇月五日以前のものは修理解決されたものと認められ、同日以後故障破損が続出したとの主張については被告兼被告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により成立を認める乙第一四号証中右主張に添う部分は措信せず他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。右認定のとおり本件プラントには解除原因として被告らの主張する瑕疵はなかったことが認められるから仮定抗弁も失当である。

(三)  被告田中の抗弁について

以上の如く被告会社の抗弁にして理由がない以上、これを前提とする被告田中の抗弁も理由がないことは多言を要しないところである。

以上の次第であって、結局原告の請求はすべて理由があるからこれを認容した本件手形判決は正当であるが、仮執行の免脱宣言は相当でないからこれを取消しその余を認可することとし、民訴法四五七条、四五八条、八九条九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井口源一郎 裁判官 清水悠爾 渡辺貢)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例